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広島地方裁判所 平成3年(行ウ)8号 判決

広島市東区光ヶ丘字天神谷一〇一番地の三二

原告

有限会社光苑

右代表者代表取締役

脇本泰典

右訴訟代理人弁護士

河村康男

大迫唯志

野曽原悦子

広島市中区上八丁堀三番一九号

被告

広島東税務署長 今井武志

右指定代理人

榎戸道也

大北貴

高地義勝

小林重道

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立

被告が昭和六三年四月二八日付けで行った、原告の昭和六一年八月一日から昭和六二年七月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が昭和六三年四月二八日付けで行った、原告の昭和六一年八月一日から昭和六二年七月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に関する更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)は、事業主体の認定を誤った点、租税特別措置法第六三条(短期所有に係る土地の譲渡等がある場合の特別税率)の規定(以下「土地重課規定」という。)を誤って適用した点、墓地の購入者から預かっている保証金を誤って譲渡収益に算入した点、譲渡原価を誤って計算した点及び経費の計算方法について原告が錯誤により選択した概算法をもって計算した点に違法があるとして、原告がその取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告は、墓地販売等を業とする有限会社である。

2  確定申告

原告は、昭和六二年九月三〇日、被告に対し、本件事業年度の法人税の青色の確定申告書に、欠損金額を四七八万四四〇三円、納付すべき税額を〇円と記載して提出した。

3  本件各処分

被告は、原告に対し、本件事業年度分法人税について、昭和六三年四月二八日付けで、欠損金額を四七九万四九六三円、土地重課規定による課税土地譲渡利益金額を六一四一万円、納付すべき税額を一二二七万九七〇〇円とする本件更正処分及び過少申告加算税の額を一二〇万二〇〇〇円とする本件賦課決定処分をした。

被告が右各処分を行った主な理由は、本件事業年度内に行われた、広島市東区光が丘字天神谷一〇一番地三二の山林二三一六平方メートル(以下「本件土地」という。)を墓地(以下「本件墓地」という。)として造成し、その分譲(当該墓地を半永久的に使用する権利(以下「永代使用権」という。)を承認する対価として永代使用料を収受する行為)をした事業(以下「本件墓地事業」という。)の主体は原告であって、右の形態で収受された永代使用料については土地譲渡等の対価として土地重課規定の適用があり、経費の計算方法については実額配賦法の適用はないということである。

4  不服申立て

(一) 原告は、昭和六三年六月二四日付けで、被告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)に対する異議申立てをしたが、被告は、同年九月三〇日付けでこれを棄却する決定をした。

(二) 原告は、同年一〇月三一日付けで、国税不服審判所長に対し、本件更正処分等について審査請求をしたが、同所長は、平成三年一月二九日付けでこれを棄却する裁決をした。

二  争点

1  本件墓地事業の主体

(一) 原告の主張

本件墓地事業は、すべて宗教法人正廣寺(以下「正廣寺」という。)が事業主体となって実施したものである。原告は正廣寺より土地の購入についての資金の段取り、造成工事及び永代使用契約締結の業務についての委託を受けてこれを実行したにすぎず、原告は、本件墓地事業の主体ではない以上、原告を本件墓地事業の主体とした上で、原告に対して行われた被告の本件更正処分等は違法である。以下の事実等は右主張を裏付けるものである。

(1) (本件土地の使用目的及び正廣寺の移転目的)

本件土地は、当初より墓地用地であった。そして、正廣寺は、本件墓地を含む周辺土地において墓地の管理等を行うために現在地に移転したものである。

(2)(本件墓地造成の企画主体)

本件土地を墓地とすることに決定した経緯は次のとおりである。

昭和五八年一二月ころ、脇本祐之介(以下「脇本」という。)は、当時本件土地の所有者であった岩国信用金庫から本件土地を取得した上で中国炭素に転売することを決めていたが、正廣寺は、本件墓地の上方に存する同寺の既存の墓地(後出(第三の一、1、(一)、(1))の旧墓地)の造成が杜撰であったのでそのまま放置すると法面崩壊等の事故が起きる可能性があり、本件土地が第三者の所有物となった場合には、その所有者に対して右事故発生の場合に損害賠償責任を負うことになるおそれがあったことや旧墓地の駐車場、給水場等の場所確保の必要性があったことから、脇本に、手付けの倍返しをさせてまで中国炭素への転売を解約させ、本件墓地造成を決定したものである。

また、正廣寺は本件墓地経営を通じて門徒を獲得し、その経営基盤を確立しようとした。

さらに、かつて正廣寺の総代長であった藤井一史(以下「藤井」という。)は、原告会社の代表者になったことがあったが、これは正廣寺の利益のために本件墓地の企画を進めるためであった。

(3)(業務委託の事実)

正廣寺は原告に以下の内容の業務代行を委託した。

〈1〉 正廣寺に代わって本件土地を購入し、また墓地造成の工事の発注を行う。

〈2〉 右墓地造成工事の企画、管理を行う。

〈3〉 右完成墓地の販売に関し、広告宣伝の企画、実施を行う。

〈4〉 右完成墓地に関する永代使用権の販売代理を行う。

〈5〉 業務委託契約期間中、本件墓地の管理をする。

〈6〉 費用に関しては、許認可に関する費用を原告において立て替える。

〈7〉 本件完成墓地を正廣寺の資産として残すほか、本件墓地経営の総収入のうち、基本金名目(その後、「永代懇志料」との名目になる。)で一〇パーセント、永代管理料名目で一〇パーセント、総額二〇パーセントの金員を正廣寺の手持ち現金として確保する。

〈8〉 その余の墓地永代使用料については、原告が代行する各業務の費用、土地取得費や造成費の立替金に充当する。

これらの業務は本来すべて正廣寺の名義で行われるべきものであったが、正廣寺が金融機関から資金を借り入れることが困難であったことから、やむを得ず原告名義で資金の借り入れをすることとなり、その結果、土地の取得及び墓地造成工事の発注を原告名義で行ったものであり、正廣寺が被告に対しこのような業務委託をした事実は、正廣寺住職藤本真了(以下「藤本」という。)が、原告が正廣寺の業務代行であるとして、同人の方から意見して、各種の書類に「業務代行者有限会社光苑」との名称を入れさせていることからも明らかである。

正廣寺と原告とで、業務委託の費用の負担及び原告に対する報酬に関し右〈6〉ないし〈8〉のとおりの合意をしたのは、本件墓地の造成やその後の販売、実際の墓地の維持管理の業務のすべてを原告が代行することになっており、これらに要する費用を確定することができなかったためであって不合理なものではなく、このような合意自体の存在については、昭和五九年四月二日の正廣寺と脇本との間の合意書(以下「A協定書」という。)を原告が承継したことからも明らかである。

(4)(許可申請の名義)

昭和六一年二月三日、広島市に対し、正廣寺の名義で、墓地経営の許可申請がなされた。広島市は、同年四月九日、右申請を許可した。

同年四月一八日、広島市は、正廣寺の名義でなされた、正廣寺を施主とする宅地(墓地)造成の許可申請を許可した。

このように、本件墓地経営及び土地造成に関する各種行政機関の許可はいずれも正廣寺が申請し、正廣寺に対してされたものである。

(5)(本件墓地販売の名義)

本件墓地の販売者は正廣寺である。墓地永代使用権利証は正廣寺が所持、管理し、発行しており、墓地永代使用料の領収書も正廣寺が発行している。その他霊苑使用者誓約書、確約書、墓地内工事施工届、お願い文書等の文書はいずれも正廣寺の名義である。

また、実際の販売においても、墓地永代使用権の購入希望者より購入の申込みがなされた場合には、原告がこれを正廣寺に持参し、正廣寺がこれを承諾した場合に限り、正廣寺は墓地永代使用権利証を発行した。

このように本件墓地永代使用権利証の発行はすべて正廣寺によって管理されており、原告は単に業務を代行しているにすぎない。

(6)(石材店との関係)

本件墓地について墓石を建立する場合には、今村石材が指定店となっており、正廣寺は、同店が墓地使用者からの依頼を受けて墓石を建立する際には同店を通じて墓地修復費積立金を徴収する旨定めており、また、その金額についても、当初一墓石について一万円であったが、最近、正廣寺がこれを二万円に増額している。この点については原告は何ら関与していない。

(7)(本件土地の所有関係、登記名義)

本件土地の実質的所有者は正廣寺である。本件土地は、本来、正廣寺が購入すべきものであった。しかしながら、正廣寺が購入資金を準備できないため正廣寺に代わって原告が購入資金を準備することになり、しかも原告も購入資金については金融機関から借入れをするほかはなかったので、本件土地を原告名義とし、購入資金借入れのための担保としたにすぎない。

A協定書及び昭和六一年七月一日付けの合意書(以下「B協定書」という。)の二通の合意書(以下、両協定書をあわせて呼称するときは「A・B協定書」という。)に、原告が岩国信用金庫から本件土地を取得し、速やかに正廣寺に寄付する旨記載されていることは、右主張の実質的所有関係を裏付けるものである。

現在、登記簿上、本件土地が原告名義になっているのは、藤本が、「抵当つきの土地はいらない。」と言い、所有権移転登記を拒んだためである。

原告は、昭和六二年一二月二三日、正廣寺に対し、本件土地の一部につき、真正な登記名義の回復を原因として、所有権移転登記手続を行った。

(8)(原告の経理処理)

本件事業年度の原告の帳簿処理において、原告は、業務代行総収入として墓地の永代使用権の販売総額を売上(収益)として掲げ、墓地立替金相殺原価及び永代使用懇志料を売上原価(損金)として掲げている。

この墓地立替金相殺原価にいう立替金とは、墓地の取得費、造成工事費等墓地を販売できる状態にするための費用の全額である。したがって、帳簿処理からしても当初より本件土地の実質的所有者は正廣寺である。

原告は、本件土地の購入及び本件土地の墓地造成について正廣寺に名義を貸し、原告名義で代金の立替払をしている。

ところで、本件墓地の購入希望者から徴収される永代使用料は、本来であれば正廣寺が購入希望者から直接徴収すべきものであり、原告はあくまでも正廣寺に代わって徴収しているにすぎず、いずれ正廣寺に引渡されるべきものであるが、その際には、右の本件土地購入代金及び本件土地造成費用は控除されるべきものである。

(二) 被告の主張

土地譲渡所得の帰属主体を決する際には、実質課税の原則に従い、形式にとらわれることなく、実質的に土地を処分すべき権限がいずれに存したかなどの事情を総合考慮して判断すべきものであるところ(法人税法一一条)、本件においても、名義の如何にかかわらず、原告と正廣寺の両者の地位、経験、能力、事業に至る経緯、手続を実際に担当した者、墓地所有権の所在、経営方針の決定等に関する支配力、事実収益の流れ等の事情を総合考慮して土地譲渡所得の帰属主体たる事業主体を判定すべきである。

以下の事業等を総合考慮すると、本件事業年度内に行われた本件墓地事業の事業主体は原告である。

(1)(原告正廣寺間の委託契約が無いこと)

原告と正廣寺との間に交わされた約束は、A・B協定書記載の内容の合意しかなく、それ以外には口頭で交わした協定はない。

関係書類に記載された「業務代行」の名称は、原告主張のように法律上の契約に基づくものではなく、事業主体すなわち営業主(原告)と墓地購入希望者(顧客)との関係を明らかにさせる目的で使用されたものである。

(2)(原告による本件土地代金の資金調達)

原告は、本件土地の取得代金及び本件墓地の造成工事代金等の資金に充てるために、広島市信用組合から、昭和六一年六月一九日に四〇〇〇万円、同年八月五日に一〇〇〇万円、昭和六二年二月二八日に五〇〇〇万円の合計一億円を借り入れ、また、この金員を原告において返済している。その返済資金は、本件墓地の分譲代金の中から正廣寺に支払う金員等を控除したものである。

(3)(原告による本件土地の取得及びその登記名義)

本件土地は、原告が昭和六一年六月一九日付け土地売買契約書により岩国信用金庫から三三〇〇万円で取得したものであり、所有権移転登記も同日行われている。

本件土地の登記名義は一旦原告にすべて移転され、分譲可能な部分については未だに原告名義のままである。

原告から正廣寺に、真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記された土地(本件土地の一部で、本件土地から昭和六二年九月一七日付けで分筆した一〇一番四六の山林一三平方メートル及び一〇一番四七の山林二八〇平方メートル)は、その後、昭和六三年一〇月八日に正廣寺から広島市に対して公衆用道路として寄付されている。

(4)(原告による造成工事の発注)

本件墓地の造成工事は、原告が日本緑地開発株式会社に発注し、造成工事代金も原告が支払っている。

(5)(原告による本件墓地分譲活動)

原告は、墓地購入希望者を募り、希望者と原告とを当事者とする永代使用契約を締結した。

正廣寺が、本件墓地分譲において、「宗教法人正廣寺聖光霊苑」名の使用を容認したのは、販売後の墓地管理(経営)を寺院が行うものであるからにすぎず、短絡的にその名義のみをもって正廣寺が事業主体ということはできないばかりか、実際には正廣寺には墓地分譲を行う人材はおらず、また、正廣寺は、前記のように、事業主体すなわち営業主(原告)と墓地購入希望者(顧客)との関係を明らかにさせる目的で「業務代行」の名称を関係書類に入れさせていることからしても、本件墓地の分譲活動の主体は原告である。

(6)(本件分譲による収益の自由処分性)

本件分譲による収益から正廣寺が収受するのは、永代使用料の一〇パーセント相当額の永代懇志料及び別途永代使用契約者から原告が徴収する右同額の永代管理料に限られ、その余はまったく原告において自由に処分可能な利得になっており、原告は本件分譲によって得た利益のうち、広島市信用組合からの借入金の返済に回した部分を除き、自由に役員報酬等として処分し、これらについて事後的に正廣寺との間で清算等をすることもなかった。

(7)(原告及び正廣寺の経理処理)

原告は、墓地使用者から永代使用料を収受し、本件事業年度の決算報告書に収受した永代使用料の総額を収益に計上し、正廣寺に支払った永代使用料の一〇パーセント相当額の永代懇志料を損金に計上し、墓地使用者から預かった永代管理料については、預かり金勘定で受け入れた上、正廣寺に支出している。

正廣寺は、原告から永代使用料の二〇パーセント相当額の金員を受け取り、それぞれ一〇パーセント相当額を永代懇志料及び永代管理料として備付け帳簿に収入として記載し、会計処理を行っていた。

原告が正廣寺に対し、決算報告を行った事実はなく、また、正廣寺に対して、立替金とか預かり金の存在することを知らせたことは一切なかった。

(8)(原告の経営の独立性)

原告は、本件土地をめぐる資金手当、造成、販売等について正廣寺からなんら制約を受けることも、報告義務を課されることもなく、独立して事業経営をしていたのであり、原告は、本件分譲によって得た収益から借入金を返済し、自らの計算で役員報酬などの支出を行っている。

藤井が原告の代表者に就任したのは、ただ単に原告の資金調達上の要請に沿ったまでであって、藤井が、原告の経営の状況について、正廣寺のために管理、監督していたものではない。

(9)(正廣寺の住職の認識)

正廣寺の住職である藤本は、土地の関係、資金、造成工事については分からない旨を被告の異議調査担当者に回答している。

2  土地重課規定の適用の有無

(一) 原告の主張

(1)(譲渡の主体)

本件墓地分譲事業たる永代使用権の販売の主体は、正廣寺であり、原告ではないので、原告に対して土地重課規定の適用はない。

なお、正廣寺の行う永代使用権の販売は、布教活動の一環として実施されているものである以上、正廣寺に対しても土地重課規定の適用はない。

(2)(債権的契約)

墓地の永代使用契約は、寺に対して契約者の祖先の霊を永代にわたって祭ってもらうことを求めることを主たる内容とする債権的契約であり、その結果として当該寺が管理する墓地を物理的に利用することを当該寺が承認するものである。したがって、本件墓地事業は、何ら物権的権利の譲渡を目的とするものではないのであるから土地重課規定の適用はない。

(3)(祖先の祭祀)

そもそも、このような人間本来の義務である祖先の祭祀を果すための契約による金員の授受に対して、本来、土地売買による不労利益に対する課税規定であるところの土地重課規定を適用することは法の予定するところではない。相続税法において墓地、墓石、おたまやのようなものの他、これらのものの尊厳の維持に必要な土地その他の物件について、一般財産と区別して非課税財産とされているのもこれと同趣旨である。

(4)(広島東税務署法人税課職員の原告顧問税理士に対する回答)

原告の顧問税理士である森戸税理士が、昭和六〇年九月二〇日ころ、広島税務署法人税課職員に、墓地の永代使用権の販売についての土地重課規定の適用基準を確認したところ、職員は森戸税理士に対し、永代使用権の販売に関して土地重課規定が適用された事例の資料を交付した上、「業者において、自由に永代使用権の処分が可能であり、例えば業者が永代使用権の販売権自体を取得し、その者が他に転売が可能であるような、墓券が権利書として一人歩きするような場合には、土地重課規定の適用となる。」との説明をした。

本件の場合には、原告は、常に購入予定者が申込みを行った段階で、正廣寺にそれを報告し、正廣寺の承諾を受け、該当する墓地についての永代使用権利書を発行してもらうという実体であることから、右基準に該当しない。

(二) 被告の主張

本件においては、法人である原告が、自己資金(銀行からの借入金)により土地を取得し、これを墓地に造成する等して価値を付加した上で、当該墓地の永代使用権を販売し、永代使用権を購入した者は当該墓地に墳墓を設置して当該墓地を長期間使用することができるのであるから、右永代使用権の販売は、賃借権類似の土地使用権の設定行為であると認められる。

墓地が返還されることは稀であるから、右墓地の永代使用権の販売契約により設定される土地使用権は半永久的といえるほど極めて長期の使用権限であり、また、本件事業においては、右永代使用権の対価によって、墓地の敷地の取得価格と造成費用との合計額に相当する金員を回収しようとしている。これらのことからして、右永代使用権の対価は、経済的には当該土地の所有権の機能の大半に対する対価としての性質を持つものである。

そうすると、永代使用権の販売後は、当該土地所有権自体はほとんど価値のないものとなるのであるから、右永代使用権の設定契約が債権的契約にとどまるとの原告の主張は失当である。

したがって、本件墓地の永代使用権の販売は、地上権又は賃借権の設定、その他契約により他人に土地等を長期間使用させる行為で法人税法施行令一三八条一項の規定に該当するものに当たり、土地重課規定の適用対象である。

3  預かり保証金の土地譲渡益金額からの控除

(一) 原告の主張

仮に、本件墓地事業について土地重課規定の適用があるとしても、本件各墓地に関する永代使用契約締結の際に授受した金員のうちの五〇パーセントは、原告が正廣寺に対して返還義務を負っている預かり保証金であり収益金ではないので、土地譲渡益金額から控除されるべきであるのに、それを控除せずに行われた被告の本件更正処分等は違法である。

(1)(確約書の内容)

本件墓地における霊苑使用者誓約書第九条について、契約者側から問合わせが多かったため、原告は、その内容について疑義を晴らす目的で、同条が「皆様方から受納いたしました永代使用の懇志につきましては、その半額は当方が皆様からお預かりしているいわば保証金でありまして、何時でも皆様方よりの「墓地不要」とのお申出により皆様方にお返しする性格のものであります。ただし、その手続に二ヵ月を要します。」という内容であることを確認する旨の確約書を契約者より受け取っている。

(2)(確約書の作成時期)

右確約書は、昭和六一年一一月一五日、本件墓地の永代使用の申入れのあった石橋正信より、「霊苑使用者誓約書」についての異議の申出があり、同人が独自の誓約書を作成したことに端を発し、当時問合わせが多かった第九条について文章の意味を明確にする趣旨で作成したものであり、作成時期は、昭和六一年年末ころもしくは昭和六二年年頭ころである。

(3)(返還義務の発生時期)

また、本件墓地使用に関する永代使用契約によれば、預かり保証金の返還義務は契約時において確定的に発生している債務である。

(4)(返還義務の主体及びその帳簿処理)

個々の墓地永代使用権購入者に対する預かり保証金の返還義務を負っているのは本来正廣寺であり、原告はそれをさらに一時的に預かっているだけである。このことは、本件墓地の実質的経営者が正廣寺であることからも明らかである。

右預かり保証金についての帳簿処理は以下のとおりである。

本件事業年度については、決算時点において、正廣寺に対する、墓地に関する立替金の総額の確定ができなかったため、やむを得ず一時的処理として墓地の永代使用権の販売総額を全額業務代行総収入として掲げることとした。しかし、本件事業年度の次の事業年度においては、その法人税の確定申告に際して、すでに右立替金の総額が確定したため、本件事業年度について墓地の永代使用権の販売総額の半額(預かり保証金部分を除いた金額)を業務代行総収入として扱い、残りの半額(保証金部分)は正廣寺からの長期預かり金として処理し、その旨の前期損益修正をしている。また、それ以降の事業年度についても同様の処理をしている。

(二) 被告の主張

預かり保証金を土地譲渡益金額から控除する理由はない。原告が収受した永代使用料は、その全額が返還を予定されない墓地使用権設定の対価であって、収益である。

(1)(返還義務の性質)

墓地は、その宗教的性格からして永続的性質を有し、しかも安易に移動させるものでもなく、墓地使用者の平均的な宗教的、経済的意思を推測すれば、永代にわたり祖先の霊を祭るために相当の出費をして墓地を取得し、墓碑を設置した者が、容易にしかも短期間のうちにその使用の中止、解約を申し出ることは、遠隔地に転居永住し墓参も不可能になるなど余程の事情のある特別の場合を除き、一般的にはあり得ないことである。

そうすると、霊苑使用者誓約書に既納使用料の五〇パーセントの金員を返還する旨の定めがあるとはいえ、これは近い将来の返還を予定した金員とみることはできず、墓地使用者から墓地不要の申出があって初めてその時に履行義務が生ずるものと解されるから、霊苑使用者誓約書が差し入れられた時点においては、確定した債務とみることはできない。

このように、稀有な場合に発生する債務であるので、それに備えて常時資金を準備する必要があるとは考えられず、現実に墓地不要の申出があった際に初めて資金手当てをすることで十分である。

そして、返還条項によれば、永代使用料のうち五〇パーセント相当額はそのまま全額が墓地使用者に返還されると定められており、墓地使用者の負担すべき債務等と清算されるといった約定はまったくない。

そもそも墓地使用者は、墓地使用権取得の対価である永代使用料等を支払った後は、墓地使用に対する使用料の支払いその他墓地使用に伴う経済的な負担をすることがないのであるから、原告において、将来墓地使用者が負担すべき債務等の担保のために予め保証金を授受する必要はない。

したがって、右返還条項をもって、永代使用料の五〇パーセント相当額を預かり金とみることはできない(むしろ、これは永代使用権の買戻しの対価と認めるのが相当である。)。

(2)(返還義務の主体)

甲第七号証の霊苑使用者誓約書の九条によれば「使用墓地が不要となったときは、貴苑の規定にしたがい現状に復し、永代使用証を返還いたします。その際、既納使用料の五〇パーセントの金額を二か月後に返還される事に異存はありません。」となっているが、この貴苑とは正廣寺と読める。

墓地不要の申出があったときには、墓地は原状に復され、正廣寺において、当該墓地を第三者に販売することができるのであるから、これにより、墓地使用者に対する返還資金の手当てが可能であるし、原告も正廣寺に対してそのような説明をしている。

したがって、右金員の返還という事態になったとしても、これを返還するのは原告ではなく、正廣寺であるから、原告が墓地の譲渡対価の一部を備蓄することによって右返還資金を準備する必要はない。

原告は、墓地使用者から収受した永代使用料の総額を本件事業年度の決算報告書に収益の額として計上しており、墓地販売代金のうち一〇パーセント相当額の永代懇志料を除く部分については原告が自由に処分できるのであって、正廣寺が返還すべき永代使用料の五〇パーセント相当額の資金を原告が備蓄してこれを正廣寺に引き継ぐことも、これを原告が負担するという契約も存在しない。

4  新築建物の土地との一括譲渡の特例の適用の有無

(一) 原告の主張

本件墓地の分譲は、土地をそのままの状態で販売したものではなく、土地を霊苑として使用できるように造成をして、すぐに墓石を設置できる状態にまで付加価値をつけた上で行ったものであり、これは、この付加価値つきの土地に対する使用権の譲渡に他ならないところ、措置法関係通達(法人税編)六三(二)-四《新築した建物を土地等とともに一括譲渡した場合の対価の区分の特例》の趣旨が、土地の上に建物を建てて一括譲渡することは土地に建物という付加価値をつけてその付加価値が利用できることを主たる目的として譲渡する場合の特例であることを考えると、本件分譲はこの特例の趣旨に合致しており、したがって、譲渡原価の額の算出方法は前記特例に準じて算出されるべきであり、この方法によれば、次のとおり、譲渡原価の額は三二五五万二四二一円となる。

45,600,000円+(58,500,000円×142%)=128,670,000円

(譲渡原価の総額)(墓地造成費)

128,670,000円×(94.95m2÷375.309m2)=32,552,421円

(当期販売面積)(販売可能面積)

(二) 被告の主張

原告の主張する譲渡原価の額の算定方法は原告独自の見解に基づくもので合理的な根拠のないものであるから、正当と認めることはできない。

(1)(原告主張の特例の趣旨)

土地重課制度は、土地の譲渡等による収益を課税の対象とするものである。

したがって、土地に建物を新しく建てて一括譲渡する場合、譲渡人が入手する収益のうちには、土地の譲渡による収益と新築建物の譲渡による収益とが混在しているので、それぞれの譲渡による収益の額を区分する必要があるが、実務上、建物の譲渡価格なり土地の譲渡価格なりを見積もることはかなり困難であるので、新築した建物の譲渡による収益を土地の譲渡収益から除くための便宜上の計算方法が定められ、実務上の便宜が図られている。

(2)(本件墓地の譲渡の性質)

土地重課制度は、土地の譲渡等によって発生した収益に対して課税するものであって、まさに付加価値をも含めた土地の譲渡による収益を課税の対象としているのであって、特例は、前記のように、土地の付加価値の譲渡による収益を土地の譲渡収益から除くものではない。

したがって、本件のような土地の造成による付加価値分を譲渡収益から排除する必要はまったくなく、原告主張のようにこれを行うことは、かえって土地重課制度の趣旨に反することになる。

5  実額配賦法の選択の可否

(一) 原告の主張

(1)(原告の錯誤による概算法の選択)

土地重課規定による特別税率を適用する場合の譲渡経費の額は、租税特別措置法施行令三八条の四第六項所定の金額であるとされ(以下、同項の定める計算方式を「概算法」という。)、同条八項において、法人が当該土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費の額につき、それぞれ当該事業年度においてした土地の譲渡等のすべてについて支出するこれらの経費の額のうち当該土地の譲渡に係る部分の金額を合理的に計算して(以下、この法人が合理的に計算して得られた金額を「当該土地譲渡等に係る譲渡経費の実績金額」という。)法人税法一五一条一項に規定する法人税申告書(同法二条三九号に規定する修正申告書を除く。)に記載した場合には、同条第六項の規定にかかわらず、当該計算した金額をもって当該土地の譲渡に係る当該各号に掲げる金額とすることができると規定されている(以下、同条第八項の定める計算方式を「実額配賦法」という。)。

原告は、本件事業年度の法人税の確定申告をするにあたり、本件墓地の分譲は原告の事業ではなく、また、永代使用契約の締結は土地重課規定の適用がないと考えたため、申告書に実額配賦法により計算した当該土地譲渡等に係る譲渡経費の実績金額を記載をしなかったところ、被告は、本件更正及び過少申告加算税賦課決定において、譲渡経費の額を概算法に基づいて算出した。

仮に原告について土地重課規定の適用があるとすれば、原告は直接又は間接に要した経費の額につき、概算法と実額配賦法を比較し検討した上で、実額配賦法を採用し、申告書に当該土地譲渡等に係る実績金額を記載をしていたはずである。

このように錯誤によって実額配賦法により計算した当該土地譲渡等に係る実績金額の記載をしないで法人税の確定申告がなされた場合には、これを取り消し、実額配賦法により直接又は間接に要した経費の額を算出することを認めるべきである。

(2)(錯誤に基づく概算経費選択の意思表示の撤回を認めた判例)

最高裁判所平成二年六月五日第三小法廷判決(民集四四巻四号六一二頁)は、医師の社会保険診療報酬の必要経費の算出について、「錯誤に基づいて概算経費を選択した場合に、この概算経費選択の意思表示を錯誤により撤回し、修正申告において所得税法三七条一項等に基づき実額経費を社会保険診療報酬の必要経費として計上できる。」としており、この判例の趣旨は、本件にも妥当すると考えるべきであり、本件でも錯誤により選択された概算法の撤回を認め、実額配賦法により必要経費を算出することを認めるべきである。

(3)(実額配賦法による場合の必要経費の額)

実額配賦法により計算すると、原告の本件事業年度の直接又は間接に要した経費の額は次のとおりである。

〈1〉 負債利子額 五六六万一九四六円

〈2〉 販売費及び一般管理費 六五五四万四五八四円

総合計 七一二〇万六五三〇円

したがって、仮に原告の事業に対して土地重課規定の適用があり、その余の原告の主張が認められないとしても、被告の主張する譲渡収益の額九〇八二万七〇〇〇円から被告の算出した譲渡原価の額二六三四万〇一九九円及び前記直接又は間接に要した経費の総額七一二〇万六五三〇円を差し引くと、六七一万九七二九円の損失となり、この点のみにおいても更正処分は違法である。

(二) 被告の主張

(1)(更正決定処分における概算法適用の正当性)

被告は、原告の本件事業年度の本件墓地の分譲に関して直接又は間接に要した経費の額を法令の規定に従って計算した上で更正決定をしており、なんら違法な点はない。

本件は、被告の行った更正決定処分が適法なものであるか否かが問題とされているのであって、被告の更正決定処分においては、意思表示の撤回ないし取消しが問題となる余地はない。

(2)(原告が援用する判例に関する意見)

判例の事案は、修正申告をするにあたり、概算経費選択の意思表示を、錯誤に基づくものであるとして撤回し、実額経費を計上することが許されるか否かが争われたものである。

修正申告制度は、申告納税制度の一環として、納税者に確定申告、更正及び決定に係る税額の増額変更をするための納税申告書の提出を認め、納税者が自らその納付すべき税額を確定する制度であり、修正申告は、確定申告と同様に、私人が課税要件事実を自ら確認し、所定の方法で税額を確定して、国に通知する公法行為であり、それにより租税債権債務という公法上の法律効果を生ぜしめるものであって、私人の意思表示をその要素内容としている。

したがって、修正申告の場面では、意思表示の撤回ないし取消しということが問題となりうる余地があり、右事案においても、まさに錯誤による概算経費選択の意思表示の撤回の可否が争点となった。

これに対して、税務官庁の更正処分は、納税者の意思表示をその要素・内容とするものではなく、税法の定める課税要件事実が存在することを要件としてなされるものであるから、更正処分においては、私人の意思表示による選択や意思表示の錯誤が問題となる余地はない。

本件は、判例の事案とは、事案を異にしていることは明らかであり、判例の判旨は本件には妥当しない。

第三判断

一  本件墓地事業の主体について

1  原告が本件事業を開始するまでの経緯

当事者間に争いのない事実及び証拠(脇本、藤井、藤本、甲三ないし二一、二二の一、二、二三の一ないし三、二四の一ないし一〇、二五の一ないし五、二六の一ないし四、二七、二八の一ないし三、乙一ないし一四、一五の一、二、一六、一七の一、二、一八ないし二一)によると、本件に至る経緯等として以下の事実が認められる。

(一) 本件墓地の造成及び販売が決定されるまで

(1) 昭和四〇年代前半ころ、広島市東区光が丘天神谷一〇一番一の土地(以下同所所在の土地は字名を省略して地番のみで表記する。)に、寿興業株式会社(以下「寿興業」という。)及び正廣寺が墓地を造成して販売する計画が進められており(以下その当時の墓地を「旧墓地」という。)、正廣寺はそれに先立って現在の場所に移転してきたが、この計画は寿興業が倒産したことにより中途で頓挫し、寿興業に対して債権を有し、一〇一番一の土地(本件土地は、その後一〇一番一から昭和五〇年一〇月六日に分筆されたものである。)に担保を設定していた岩国信用金庫は、同土地の競売を申し立て、自ら競落してその所有権を取得した。

(2) 岩国信用金庫は、右土地のうち、既に造成を完了していた部分を販売して右債権を回収しようと企画したが、自らは墓地を販売することができなかったため、昭和五〇年八月五日、正廣寺との間で、岩国信用金庫が旧墓地の永代使用権の処分権を第三者に譲渡し、その第三者が旧墓地の永代使用権を販売した場合、それを正廣寺が認めること、右処分権を取得した者から岩国信用金庫が昭和五〇年一〇月一五日までに四七七〇万円を受領した場合は、岩国信用金庫は一〇一番一の土地のうち旧墓地及び正廣寺の敷地部分の所有権を無償で正廣寺へ譲渡することなどを内容とする合意をし、それを覚書(甲一九)に記載し、両者署名押印した。

(3) 脇本は岩国信用金庫から右覚書で定めた旧墓地の永代使用権の処分権を取得し、、昭和五〇年二月ころから昭和五五年ころまで右使用権の販売を行った。その結果、完売には至らなかったが、正廣寺の敷地及び旧墓地の底地等については、右覚書の定める日からは遅延したものの、昭和五五年三月二七日に寄付を原因として正廣寺へ所有権の移転登記がなされた。

(4) 岩国信用金庫は旧墓地の永代使用権の処分権を脇本に譲渡した際、本件土地及び後に公衆用道路として広島市へ寄付された部分等も併せて脇本が購入するか又は脇本が処分権を取得して販売するように勧誘したが、当時右土地が市街化調整区域に指定されていた区域内にあったことから、脇本と岩国信用金庫が協力して右調整区域指定の解除の申請をしつつ、右指定が解除されてから右の件について交渉を再開することとなった。

(5) その後、昭和五二年ないし同五三年ころに右調整区域指定が解除されたことから、岩国信用金庫と脇本の間で再び本件土地についての交渉があったが、金額の点で折り合いが付かず、交渉は中断し、放置されていた。昭和五八年ころ、岩国信用金庫からの再度の要請により、脇本は再び本件土地の処分に関する活動を開始し、正廣寺の先代住職が本件土地を墓地としたいと望んでいたことから、正廣寺の当時の住職であった藤本に、岩国信用金庫が本件土地の処分を望んでいることを伝え、本件土地を正廣寺が岩国信用金庫から購入して墓地にする意思があるかどうかを確認し、正廣寺が購入しなければ、他に転売する旨説明したところ、藤本は旧墓地の経営で手一杯だったことなどから、脇本に対して一旦は本件土地購入の勧誘を断った。

(6) そこで、脇本は本件土地を岩国信用金庫から買い受けた上で他へ転売しようと考え、岡山市所在の中国炭素と本件土地の売買交渉を開始し、中国炭素との間で売買契約を締結して一五〇万円の手付けを受け取るとともに、昭和五八年一二月二六日、岩国信用金庫から本件土地を買い受ける旨の契約を締結し、中国炭素から受け取った右一五〇万円の手付けを流用して岩国信用金庫に同額の手付金を交付した。

(7) 昭和五九年二月下旬ころ、脇本は本件土地を他へ転売することになったことを藤本に説明するために正廣寺に赴いたところ、当時正廣寺の総代長であった藤井が居合わせたので、藤本と藤井の両名に対して事情を説明した。藤本と藤井は、脇本に対して、旧墓地の法面の一部が未整備であるので、本件土地が他へ転売された後、右法面が崩壊する等の事故が起こった場合正廣寺に責任が生ずること、旧墓地のための給水場、駐車場用地を確保する必要があること、正廣寺の先代住職と岩国信用金庫との間では本件土地についても墓地とする旨の合意があったという従来からの経緯等から、関係者を交えて正廣寺で相談するから転売するのは待ってほしい旨申し入れ、脇本もそれを承知して正廣寺の結論を待つことにした。

(8) その後、藤本は正廣寺の責任役員や法中の住職、弁護士等を交えて本件土地を墓地にするかどうか検討し、その結果、本件土地は正廣寺がいわゆる名義貸しをして脇本が墓地として造成し、将来正廣寺が管理していくこと、正廣寺は資金の調達、担保提供等の負担は一切しないこと等を決定し、その旨脇本に伝えた。

(9) 昭和五九年三月下旬ころ、正廣寺と脇本との間で、藤本、藤井、責任役員たる益田強及び藤本の妻同席の下に、後にA協定書として書面化されることとなった合意と同一の合意をし、その旨を明確にするために、昭和六〇年四月二日、中安邦夫弁護士を立会人として、本件土地の墓地造成、販売について、以下の内容のA協定書を作成し、藤本と脇本がそれぞれ署名した。

〈1〉 本件土地を墓地として造成し、永代使用権を販売するについて正廣寺と脇本との間で協議の上、次のとおりの協定が成立した。

〈2〉 正廣寺は広島市役所に対し、すでに許可を受けている墓地造成計画書について一部設計変更申請をなし、早期に変更許可を受けるべく責任を持って処理する。

〈3〉 脇本は、本件土地の墓地としての造成及び永代使用権の販売に関する費用の一切を負担することとする。

〈4〉 広島市役所より設計変更申請の許可を受け、墓地販売をし得る状態となり、その販売をするに際しては、脇本は正廣寺に対し、基本金として販売価格の約一〇パーセント及び永代管理料として同約一〇パーセント合計約二〇パーセントを納入する。

正廣寺は、右の金員の納入があったときは、即日永代使用権利証を発行し、脇本に引き渡す。

〈5〉 〈2〉の設計変更申請許認可に基づいて造成された土地の一部を墓参者用の駐車場として、乗用車一四台ないし一五台分の用地を維持すること。

〈6〉 岩国信用金庫と脇本との間において、本件土地の売買が完了し、脇本の所有となったときは、脇本は速やかに本件土地を正廣寺に寄付するものとする。

〈7〉 正廣寺及び脇本は、右協定事項について相互協力し、誠意をもって対処することとし、右事項以外の事案が提起されたときは、別途協議し解決する。

(二) 本件墓地の造成及び販売の準備並びに原告の設立

(1) 脇本は、正廣寺との間で本件土地を墓地に造成して販売する旨の右合意が成立したことから、自己の負担で中国炭素から受領した一五〇万円の手付けを返還して中国炭素との売買契約を解約するとともに、昭和五八年一二月二六日に岩国信用金庫と締結した本件土地についての売買契約を、昭和五九年四月四日、既に交付していた一五〇万円の手付金を脇本が放棄することで解約した上、岩国信用金庫との間で、正廣寺の墓地経営について両者が協力することを前提として、〈1〉岩国信用金庫は本件土地所有者として本件墓地開発許可のための設計変更申請に協力すること、〈2〉設計変更届作成等の諸費用は脇本が負担すること、〈3〉許可申請に対する岩国信用金庫の協力最終期限は昭和五九年七月末日(同年九月末日まで延期可)とすること、〈4〉脇本は墓地開発許可となった時点で本件土地を従来の契約価格である三八〇〇万円で買い取ることなどを内容とする覚書を交わした(甲二一)。

(2) その後、藤本はA協定書の合意に基づき、墓地開発計画の変更申請に必要な正廣寺周辺の住民の墓地開発に対する了解を取る活動を行った。

(3) 一方、脇本は本件土地の境界線設置に関する隣人との紛争を解決するため、昭和五九年八月一八日、土地家屋調査士の立会いの下に本件土地の境界を確認し、墓地開発設計変更の許可が得られることが確実であったので、同年一二月二八日に三〇〇万円、昭和六〇年二月五日に三〇〇万円の合計六〇〇万円を境界に争いのある隣地所有者に支払って、この問題を解決した。

なお、右六〇〇万円の解決金について、脇本は、藤本に対して請求したことはなく、また一時的に自分が立て替えて支払っておく旨の合意が藤本との間でなされたということもない。脇本は、その後、原告から右六〇〇万円も含めた諸費用の支払いを受けている。

(4) その後、昭和六〇年六月までに、脇本は本件墓地造成のための資金調達方法を検討し、友人である佐々木徳雄(以下「佐々木」という。)に相談したところ、佐々木が銀行から借入れをして、調達してもよいという回答を得た。佐々木は銀行からの融資を受けるために事業主体を法人とすることとして、昭和六〇年六月四日、佐々木を代表取締役として墓地販売を主たる業務とする有限会社である原告を設立した。

脇本は、自らは原告の役員等になることはなかったが、長男脇本泰典、二男脇本尚などを役員や従業員として原告に送り込み、その後、自らも本件墓地の広告、販売等本件事業に従事し、少なくとも本件事業年度においては一〇〇〇万円以上の金員を原告から受領している。

(5) 原告の設立にともない、原告がA協定書における正廣寺と脇本との合意内容を脇本の立場で引き継ぐという趣旨で、佐々木は原告代表者としてA協定書に署名押印した。

2  原告による本件事業の展開

(一) B協定書の作成及び事業方針の決定

(1) 原告は、本件土地の岩国信用金庫からの購入代金及び墓地造成費用を銀行から借り入れるにあたり、当事者を脇本とするA協定書に代わる書類を作成する必要が生じたことから、昭和六〇年七月一日、正廣寺、原告(代表者佐々木)及び脇本を当事者とし、内容についてはA協定書と同一内容のB協定書を作成し、右各当事者がそれぞれ署名捺印した。

B協定書は、融資の申込みに当たり銀行へ提出するためのものにすぎなかったことから、当事者間ではA協定書も有効なものとして引き継がれていた。

(2) 昭和六〇年八月二〇日、A協定書の内容をより具体化するために、正廣寺と同寺の総代長たる資格の藤井を一方当事者とし、原告(代表者佐々木)及び脇本を他方当事者として、永代使用権利証の発行手続について次のような内容の協議がなされ、その協議結果を書面化した規約書(甲一七、乙一九)が作成された。

〈1〉 本件墓地の永代使用権は、正廣寺発行の永代使用権利証を所持することによって担保されるのであるが、その永代使用権利証は、申込契約書とA協定書(B協定書)に基づく墓地代基本金(後に「永代懇志料」と呼ばれるようになる。)及び永代管理料(いずれも永代使用料の一〇パーセント相当額で、合計その二〇パーセント相当額)が完納された時点で正廣寺が発行する。

〈2〉 永代管理料は一括払いとする。

〈3〉 永代使用権を取得し、墓石を建立する場合は、事前に指定石材店の捺印も添えて墓地施工届けを正廣寺管理者へ提出し、場所確認の上施工するものとし、その際、墓地修復費の一部に相当する搬入費として墓石一基あたり二万円を納入する。

〈4〉 将来墓石等の傾き、陥没等が発生した場合は、その多少にかかわらず、その施工業者において責任をもって修復する。

(二) 本件事業に関する許可申請等

(1) 昭和六一年二月三日、広島市に対し、正廣寺の名義で、本件土地に二〇〇区画(実測七九八・七三平方メートル)の墓地を経営することを内容とする墓地経営の許可申請がなされた(甲九)。広島市は、同年四月九日、右申請を許可し(甲一二)、また、同年四月一八日、広島市は、正廣寺の名義でなされた、正廣寺を施主とする宅地(墓地)造成の許可申請を許可した。

(2) 同年一二月二三日、広島市に対して、正廣寺の名義で、右(1)で墓地経営が許可された本件墓地の区画数を二〇〇区画から二一〇区画(実測八三九・九二平方メートル)に変更する旨の変更許可申請がなされ、広島市は、昭和六二年二月一九日に宅地造成に関する工事の変更を許可し(甲一一)、同月二五日に右墓地経営の変更申請を許可した(甲一三)。

(3) 昭和六二年二月二五日、広島市は本件墓地の造成工事の完了検査を行い、翌二六日、本件墓地の造成工事について工事完成検査済証を交付した(甲一四)。

(4) 右工事完了を受け、同年同月二七日、広島市東保健所は検査を行い、検査済証を交付した。

(5) これらの許可申請等の具体的な作業等は、原告と平田工務店こと平田敬三及び松尾土地家屋調査士との間の協議に基づいて行われ、その費用は原告がすべて負担した。

(三) 本件土地の購入及び墓地造成とそれらの資金準備

(1) 本件土地の一部について造成工事に関する許可が下りたことから、原告は岩国信用金庫から本件土地を購入するとともに造成工事に着手しようとしたが、当時、本件事業の資金準備のために原告の代表取締役に就任した佐々木が病気で入院しており、このままでは銀行からの資金の借入れが難しい状況になっていた。

そこで、脇本は藤井に善後策を相談したところ、藤井の取引先である広島市信用組合が、藤井が原告の代表者になることを条件に、融資をしてもよいとの意向であったので、藤井が広島市信用組合に担保を提供し、本件墓地の販売代金で借入金を返済して藤井関係の担保が抜けるまでは藤井を原告の代表者にしておくという条件で右融資を得ようということになり、その旨佐々木に説明して同人の了解を得た上で、昭和六一年六月一〇日、佐々木は原告の代表取締役を辞任するとともに、藤井がこれに就任した。

(2) 昭和六一年六月一一日、原告は代表者藤井の名によって広島市信用組合に四〇〇〇万円の手形貸付の方法による融資を申し込み、同組合は同月一九日、同額の融資を実行した。藤井及び原告取締役である脇本泰典は右の手形貸付の際に保証人となった。

(3) 同年六月一九日、原告は右(2)の借入金を原資として、脇本立会いの下に、岩国信用金庫に三三〇〇万円を支払って本件土地を買い受け、同日、その旨の所有権移転登記を経由した。右売買契約の特約事項において、駐車場設置費用の一部負担金として岩国信用金庫が保管中であった三〇〇万円は岩国信用金庫から原告が引き継ぐこととされ、原告はこれを預かり金として経理処理した。

(4) 同年六月二五日、原告は、藤井が専務取締役に就任している日本緑地開発株式会社(以下、「日本緑地開発」という。)に対し、本件土地の墓地造成工事を合計五五〇〇万円(造成工事本体分総額四六〇〇万円、法面保護工事分九〇〇万円)で発注し、日本緑地開発は、同年八月五日にこれらの工事の着手金の支払いを受けるという条件でこれを受注した。

(5) 税理士である森戸常雅は、このころ、藤井の依頼により、原告の決算及び税務申告等の業務を行うための税務代理契約を締結し、昭和六一年七月二日、広島市信用組合に対して原告の本件事業年度以後の各事業年度の法人税の確定申告書や青色申告の承認申請書などを提出したが、その事業種目は添付書類上は墓地販売業とされていた。

また、原告の設立第一期(昭和六〇年六月四日から同年七月三一日まで)及び第二期(昭和六〇年八月一日から同六一年七月三一日まで)の確定申告に係る書類を作成した後、昭和六一年九月三〇日に右二期分の法人税確定申告書を被告へ提出したが、第二期の確定申告書添付の勘定科目明細書及び貸借対照表によると、右(3)の特約に基づいて岩国信用金庫から引き継ぎ受領した駐車場設置費用の一部負担金は預かり金として計上され、また、購入した土地の価格として四二一〇万円が計上されているが、この土地の価格は、本件土地の購入価額三三〇〇万円に脇本が負担した境界設定手数料の六〇〇万円、平田工務店に依頼した測量、地質調査、設計申請費用合計二九〇万円、弁護士に依頼した仮処分費用二〇万円が加算されたものである。

(6) 同年八月五日、原告は広島市信用組合から借り入れた四〇〇〇万円の手形の書き換えを行うとともに新たに一〇〇〇万円を手形貸付けの方法で借り入れ、右融資を原資として、日本緑地開発へ造成工事等の着手金九〇〇万円を支払った。

藤本は、同年八月二〇日、藤井が原告の代表者に就任したことを知り、その後、藤井がB協定書の内容を確認するという趣旨で同人の捺印を求め、そのころ、藤本保管のB協定書に藤井の署名捺印を受けた。

また、藤本は、同年八月二八日、以前から関係者の間で確認を求めてきた本件墓地の造成工事に要する費用の負担に関して、墓地造成に必要となる一切の費用は原告及び脇本(地上権者側と表現されている。)で負担することとし、造成についていかなる事態が発生しても原告及び脇本は、正廣寺に一切迷惑を掛けないことを確約することを主な内容とする藤本保管の念書(乙一八)及び本件墓地の販売に関する藤本保管の前記規約書(乙一九)について、当事者である原告の代表取締役としての立場における藤井の署名を得て、同念書及び同規約書に同日の日付を記入した。

(四) 本件墓地の分譲

(1) 原告は、昭和六一年一一月ころから本件墓地の永代使用権の販売を行なった。

(2) 原告は、A協定書及び規約書に従って、宗旨、宗派を問わず不特定多数の墓地購入希望者を募り、墓地購入希望者に「霊苑使用者誓約書」(甲七)を提出させて、墓地購入希望者と原告とを当事者とする要旨以下の内容の永代使用契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

〈1〉 原告及び正廣寺は、本件墓地のうち特定の場所(以下「当該墓地」という。)について契約者の使用を承認し、契約者に対して永代使用権利証を交付すること。

〈2〉 契約者は当該墓地に五年以内に墓碑の建立をすること。

〈3〉 右〈2〉の墓碑については、契約者は本件墓地の風致の維持、管理上の事由により本件墓地管理部(正廣寺)の指定業者以外の石材業者には発注しないこと。

右について違約の場合には、本件契約を解約されても契約者は異議を申し立てないこと。解約の場合には後記〈6〉による処理をすること。

〈4〉 墓地の管理費について契約者は永代の管理費を納入すること。

〈5〉 墓地の使用契約者の承継は契約者があらかじめ本件墓地管理部(正廣寺)に届け出て所定の手続を経て、別に定める名義変更料を納め、承継の承認を受けること。

〈6〉 契約者は使用墓地が不要となったときには、原告の規定に従い原状に復し、永代使用権利証を返還すること。その際、契約者は、既納使用料の五〇パーセントの金額を二か月後に還付されることに異議を述べないこと。但し、右還付金額については、巻石代金及び永代管理料は除外して計算すること。

〈7〉 契約の際、手付金を納入後解約を申し出たときは、手付金流れとなること。また契約者が内入金のまま残額の請求に応ぜず六か月を経過したときは〈6〉の規定を適用されることに異議を述べないこと。

〈8〉 天災地変などの不可抗力の損害については、一切原告は責任を負わないこと。

(3) そして、原告は契約者から墓地販売代金を受領し、そのうち一〇パーセントに相当する額の永代懇志料及び別途契約者から預かった永代使用料の一〇パーセント相当額の永代管理料の合計金額と契約者から提出を受けた使用申込書を正廣寺へ持参し、正廣寺は即日永代使用権利証(甲三)を原告へ交付し、これを原告が墓地購入希望者(顧客)に交付した。 本件墓地は、右の手続を経て各契約者に分譲されたが、原告は事前に契約者の選別・諾否について正廣寺に相談することはなく、また、原告が契約した契約者について正廣寺がその契約を受け入れず右永代使用権利証の交付を拒んだことはなかった。

(4) 原告が墓地購入希望者から提出を受けていた前記霊苑使用者誓約書には当初「宗教法人正廣寺 聖光寺霊苑」の名称のみが記載されており、昭和六一年一〇月ころ、これを藤井が正廣寺に持参して内容の確認を求めたところ、藤本は本件墓地の販売は墓地購入希望者と原告との関係であるから原告の責任の所在を明確にするためにも原告名を記載すべきであると強く申し入れ、これを受けて霊苑使用者誓約書には「業務代行有限会社光苑」の文字が記載された。

(5) 霊苑使用者誓約書には前記(2)〈6〉のとおり、契約者において墓地が不要になったときに永代使用料の五〇パーセントの金員(以下、この金員のことを「返還金」という。)を返還する旨記載されていたが、昭和六一年一一月一五日ころ、墓地購入希望者(顧客)の中から返還金の取扱いについて疑義がある旨の申出があり、原告は、返還金の性格を明確にするために原告名及び正廣寺名で「確約書」(甲八)を作成した。

右確約書には、霊苑使用者誓約書の前(2)〈6〉の規定は、「皆様方より受納いたしました永代使用の懇志につきましては、その半額は皆様方から当方がお預かりしている、いわば保証金でありまして、何時でも皆様方よりの「使用墓地不要」とのお申出により皆様方にお返しする性格のものであります。ただし、その手続に二か月を要します。」という意味である旨記載されていた。

しかし、藤本は、右確約書の存在を知らず、平成五年六月ころにいたって、藤本の友人である瀬上某が原告と墓地購入契約を締結した際に、藤本の面前で原告の従業員である脇本尚が右瀬上に右確約書を提示したことから初めてその存在を知った。藤本は、墓地の販売は業者(原告)と墓地管理者(正廣寺)が一体となってやるものであることから正廣寺の名称を用いることについてはやむをえないと考えたが、無断で正廣寺の名称を用いたことに立腹し、脇本尚に対し、「宗教法人正廣寺の名目を入れる以上は事前に相談しなさい。」と叱責した。

なお、返還金の規定の解釈について、藤本は、霊苑使用者誓約書を以前に藤井から見せられたときには、墓石設置前に何らかの理由で契約者が墓地を不要とするに至った場合に原告が販売価格の五〇パーセントを返還するのであろうという程度に理解していた。

(6) 本件事業年度内において、原告は本件墓地を二五区画(合計九四・九五平方メートル)分譲し、永代使用料として合計九〇八二万七〇〇〇円を収受した(乙九)。

(五) 造成工事費用の支払いと借入金の返済

(1) 昭和六二年二月二八日、原告は、広島市信用組合から五〇〇〇万円の手形貸付による融資を受け、同日、日本緑地開発へ造成工事代金として四六〇〇万円を支払い、その後、同年三月末日までに、残額三五〇万円を支払うとともに、岩国信用金庫から預かっていた駐車場設置費用預かり金三〇〇万円を造成工事原価から減額する経理処理を行った。

(2) 昭和六二年四月八日、原告は広島市信用組合から一億円の証書貸付による融資を受け、同日従来からの手形貸付による借入金合計一億円の全額を返済した。広島市信用組合は右証書貸付に際して本件土地に根抵当権を設定し、同日、登記手続を行った。

(3) 原告は、昭和六二年五月六日、右一億円の借入金について本件墓地の分譲により得た収入から二五〇万円を返済し、以後、毎月、返済を行っていった。

(六) その後の本件土地の分筆及び登記名義

(1) 原告は、本件土地のうち、道路として造成した部分について一〇一番四六として一三平方メートルを、一〇一番四七として二八〇平方メートルを、また、駐車場用地について一〇一番四八として九三平方メートルをいずれも昭和六二年九月一七日に本件土地から分筆した。

(2) 道路とした一〇一番四六及び一〇一番四七については、同年一二月二三日、広島市信用組合の根抵当権設定登記を解除して真正な登記名義の回復を原因として正廣寺に所有権の移転登記がなされ、さらに、昭和六三年八月二五日、広島市に対して寄付の申出がなされ、広島市はその申出を容れて同年一〇月八日、寄付を原因として広島市に所有権の移転登記がされ、同月一九日、それぞれ公衆用道路に地目変更された。

(3) 駐車場とした一〇一番四八及び分筆後の本件土地については、その後も原告の所有名義のままである。

(4) 前記のとおりA・B協定書においては、岩国信用金庫から本件土地を原告が取得したのちは速やかに正廣寺に所有権を移転することとされていたが、その後、所有権移転の時期が墓地造成の完了後というように変わり、さらに、本件土地には根抵当権が設定され、藤本が抵当権付きの土地の所有権移転を受けることを拒否したため、広島市信用組合からの借入金を完済して根抵当権が消滅した後ということになった。

(七) 税務調査

(1) 被告は、昭和六二年一一月九日から原告に対する法人税調査を開始し、前記のとおり昭和六三年四月二八日付けで本件事業年度に係る更正処分等を行った。

(2) 森戸税理士、藤井及び脇本は、右法人税調査が開始された後の昭和六二年一一月下旬ころから昭和六三年にかけて、正廣寺の藤本を訪れ、藤本に対してA・B協定書について、本件墓地事業資金を正廣寺に代わって原告が立て替えること、本件墓地事業は原告が正廣寺の業務代行として行うこと、永代使用権の販売代金と土地取得代金及び造成費用等を相殺することなどの内容に変えてほしいと要請した。

(3) 藤本は、A・B協定書は事実に即した内容であって、それに反する右要請は不自然であると感じ、右要請を断った。

(4) このような森戸税理士らの要請は一度だけではなく、その後も藤井が右のような内容を変更した文章を持参し、藤本に捺印するよう依頼したが藤本は了承しなかった。

3  右認定事実から本件墓地事業の主体について判断する。

(一) 前認定のとおり、本件土地は、原告が岩国信用金庫から買い受けて、その名義で所有権移転登記を得ているものであり、また、本件土地の造成工事は、原告が日本緑地開発に発注して行われたものであり、その代金も原告において支払っているものである。

原告は、本件土地の取得代金の他、本件墓地の造成工事代金等の資金に充てるため、広島市信用組合から、昭和六一年六月一九日に四〇〇〇万円、同年八月五日に一〇〇〇万円、昭和六二年二月二八日に五〇〇〇万円の合計一億円を借り入れ、これを原告において返済している。

したがって、本件土地の所有権が原告にあることは疑いがない。

これに対して、原告は、A・B協定書に原告が岩国信用金庫から本件土地を取得し、速やかに正廣寺に寄付することが記載されていることを根拠に、本件土地の実質的所有者は正廣寺である旨主張する。

しかし、前認定のとおり、本件土地の移転時期については、当初は右のような寄付の時期の合意がされていたものの、その後、土地造成が完了した後となり、さらにその後、原告の広島市信用組合に対する借入金の返済が完了し、設定されている根抵当権が消滅した後と変更されていったものである。

仮に、本件土地の実質的な所有者が正廣寺であり、前記の寄付が真実の所有権者に登記名義を移転する手段に過ぎないのであれば、根抵当権の設定登記がされていようと、右のように正廣寺が形式的寄付を受けることにより所有権移転登記を得ることを拒否する理由は存在しないはずである。

しかるに、右のように寄付の時期が変更されていったのは、寄付である以上は担保権等の負担のないものを移転するのが当然であるという藤本の考えによるものであると思われ、その背後には、本件土地の実質的所有者は原告であるとの認識があることが窺われる。

したがって、A・B協定書の記載から直ちに本件土地の実質的所有者が正廣寺であると認定することはできない。

また、原告は、原告が昭和六二年一二月二三日、正廣寺に対して、本件土地の一部につき真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記をしたことをもって、本件土地の実質的所有者は正廣寺である旨主張する。

前認定のとおり、原告が正廣寺に対して真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記をしたのは、本件土地から昭和六二年九月一七日に分筆した一〇一番四六の山林一三平方メートルと一〇一番四七の山林一八〇平方メートルであるが、これらは、その後の昭和六三年一〇月八日に正廣寺から広島市へ公衆用道路として寄付されていることから明らかなように、墓地として分譲されるべき土地そのものではないのであり、本件墓地に係る土地はあくまで原告名義とされたままであることからすると、右所有権移転登記の事実から本件土地の実質的所有者が正廣寺であると認定することはできない。

以上より、本件土地の実質的所有権が正廣寺にあるとの原告の主張は理由がなく、本件土地は実質的にも原告の所有に属するものである。

そうすると、本件事業は、原告がその所有する土地について、自ら調達した資金により墓地の造成を行い、原告において墓地購入希望者を募り、希望者との間で永代使用契約を締結し、原告において分譲価格を決定して行われたものであって、これらについて原告が正廣寺から制約を受けることはなかったのであるから、原告がその事業主体であると考えるのが自然である。

(二) これに対して、原告は、本件墓地事業は正廣寺の事業であり、原告は正廣寺により土地の取得、資金の段取り、造成工事及び永代使用契約締結の業務について委託を受けているにすぎない旨主張する。

確かに、前認定のとおり、〈1〉正廣寺は、当初は本件土地を含む周辺土地を寿興業とともに墓地として造成して販売する計画を立て、現在の場所に移転してきたこと、計画が途中で頓挫して脇本により旧墓地は造成、販売されたが、本件土地はその残りの土地であること、〈2〉正廣寺は脇本が本件土地を転売することを計画していたのに対し、それを中止させ、墓地造成をすべきことを働きかけ、もって、原告を設立して本件土地に墓地を造成して販売することとなったこと、〈3〉本件土地における墓地経営の許可の申請、墓地造成の許可申請等はすべて正廣寺の名義でされていること、〈4〉墓地永代使用権利証、墓地永代使用料の領収書等は、正廣寺が発行していることが認められる。

しかし、そもそも、墓地、霊園の類は、それを宗教団体が管理、運営することは、一般人の宗教的感情からみて自然であるが、そのことと墓地、霊園の分譲を誰が誰の事業として行うかは別の問題である。墓地、霊園の分譲事業は墓地、霊園用地の取得、造成、販売と墓地、霊園の管理とにより成り立つものである。しかし、右前者と後者のそれぞれの担当主体が同一である必要性はなく、それぞれによる利益の帰属主体が同一である必然性もない。右前者と後者を別個の主体が担当した場合、収益を生む墓地事業の主要な部分はむしろ前者であるから、墓地、霊園の分譲事業による収益についての課税対象としての事業主体を判断するに当たり着目すべきは前者の担当主体である。

右〈1〉ないし〈4〉の事実は正廣寺が本件墓地に深く関わり、また、それによりなんらかの利益を得ることを企画したことの根拠とはなるが、これらのことに加えて前認定の事実を総合的に考慮すると、これらにより当然に正廣寺が本件墓地事業の主体であるとか、原告が正廣寺からその事業のうちの土地取得、造成、資金の手当、販売等について委託を受けているにすぎないということにはならないのであって、むしろ、本件墓地事業において、正廣寺は墓地、霊園の管理を担当していたにすぎないと認められる。

損益の帰属の面からみても、仮に、本件墓地事業の主体が正廣寺であるならば、その事業により正廣寺が得る利益は、その事業による売上から委託費用等の経費を控除したものとなるはずであるが、前認定のとおり、正廣寺はただ永代使用料のそれぞれ一〇パーセントに相当する金員を永代懇志料、永代管理料として受け取るだけであって、その余はすべて原告において自由に処分しうるものであり、原告がその収支を正廣寺に報告する義務もなければ、精算する義務もなかったのであるから、右正廣寺が受け取る金員は決して業務委託費用を控除した事業利益と評価することはできないものであり、これは墓地の管理料、名義料的な性質を持つ金銭であると理解すべきものである。

これについて原告は、二〇パーセントの残りを原告が業務委託の手数料として取得するとの約定は、本件墓地の造成費等はすべて原告が代行することになっているため、費用を確定することができないためのやむを得ない定めであると主張する。

しかし、そもそも土地取得の費用、墓地造成費用等の本件墓地の造成、販売に関する費用はすべて原告が決定し、支出し、さらに、その結果は何ら正廣寺に報告する必要もないということ自体、本件墓地の造成、販売に係る正廣寺と原告との関係が業務委託とは大きく性質が異なるものであることの証左というべきである。

また、本件墓地事業の主体が正廣寺であるならば、その事業から損失が生ずれば、それは正廣寺が負担するはずであるが、前認定の事実に照らしてみると、本件墓地事業において販売不振、費用過多等により損失が生じても、それはすべて原告の負担となるものであり、正廣寺はそのような損失を負担せず、あくまで、永代使用料のそれぞれ一〇パーセントに相当する金員をそれぞれ永代懇志料、永代管理料として受け取ることができるものである。

さらに、原告は、A・B協定書をもって、正廣寺の原告に対する業務委託の根拠となるがごときの主張をするが、その内容をみれば、それは決して正廣寺が脇本あるいは原告に業務委託をする趣旨のものではなく、墓地造成、販売の主体は脇本あるいは原告であり、脇本あるいは原告が正廣寺に販売価格の一定の割合の金額の金員(基本金一〇パーセント、永代管理料一〇パーセント)を支払うことを明らかにしているだけのものであって、それを正廣寺の原告に対する業務委託の根拠と評することはできない。

なお、霊苑使用者誓約書(甲七)には当初「宗教法人正廣寺 聖光霊園」とされていたのが、後に正廣寺からの異議により「宗教法人正廣寺 聖光霊園 業務代行有限会社光苑」と付加されたが、これについての正廣寺の意図は、自分が分譲の主体であり、原告は単に販売契約に携わったにすぎないことを明らかにすることを要求したものではなく、分譲を原告が行ったことから、そのこと及び本件墓地の分譲の責任の所在が原告にあることを明らかにすることを要求する趣旨であると認められるのであり、このことも原告主張の根拠とはならない。

4  以上のとおり、本件事業は、原告がその所有する土地について、自ら調達した資金により墓地の造成を行い、その判断で分譲の相手方及び分譲価格を決定して行われたものである。また、その分譲による収入は、一種の名義料や管理料と認められる永代懇志料及び永代管理料(永代使用料の合計二〇パーセント)を除きすべて原告の収入である。

これらの事実を総合すると、本件墓地事業による財産的利益の帰属主体は原告であり、課税対象としての本件事業主体は原告である。

二  土地重課規定の適用の有無

1  租税特別措置法六三条一項一号には、土地重課規定の適用要件として、法人が他の者から取得した短期所有土地の譲渡等であることが規定されているが、本件土地は、原告が岩国信用金庫から取得したものであって、その取得から本件墓地分譲までの期間が一〇年以下であることについては争いはなく、原告による本件墓地の分譲が、本件土地の所有期間の点で右要件に該当することに問題はない。

2  ただ、同条項は、土地の譲渡等の要件として、当該法人の行為が、地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものに該当することを規定しており、右法律の規定を受けて、租税特別措置法施行令三八条の四は、右行為を、法人税法施行令一三八条一項の規定に該当する場合の当該行為としている。これを、法人税法施行令一三八条一項の規定内容に照らしてみれば、内国法人が借地権(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権に限る。)の設定により他人に土地を使用させる場合において、その借地権の設定により、その設定の直前における土地の価額のうちに、当該価額からその設定の直後におけるその土地の価額を控除した残額の占める割合が十分の五以上となるときには、結局、租税特別措置法施行令三八条の四にいう、法人税法施行令一三八条一項の規定に該当する場合の当該行為に該当する場合であることになるのであるから、本件墓地の分譲が、右場合に該当するか検討する。

本件墓地の分譲における永代使用権の販売は、実質的に評価すれば、区画された墓地上に墓碑という構築物の所有を目的とする地上権の設定とみるべきものであり、さらに、本件のように墓地用地として区画した土地を永代使用料を収受して永久に使用させることとした場合には、当該土地の爾後における所有者の使用収益が事実上不可能となることに、永代使用権の販売に際して墓地使用者から徴収する金員は、墓地の性質上、極めて長期(返還されることは稀であるから、永久といっても過言ではない。)の使用権設定の対価であって、最終的には右金員によって墓地の敷地の取得価格と造成費用との合計額を回収しようとするものであると認められることも併せ考えると、右金員は、経済的には所有権の機能の大半を譲渡したことの対価としての性質を持つものと認めることができる。したがって、永代使用権の販売後は当該土地所有権自体はほとんど価値のないものになると認められるから、永代使用権の設定により、その設定の直前における土地の価額のうちに、当該価額からその設定の直後におけるその土地の価額を控除した残額の占める割合が十分の五以上となることは明らかである。

以上のとおり、原告による本件墓地の分譲は、租税特別措置法施行令三八条の四にいう、法人税法施行令一三八条一項の規定に該当する場合の当該行為に該当するのであるから、租税特別措置法六三条一項一号の地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものに該当し、土地重課規定の適用対象となる。

3  これに対して、原告は、まず、本件墓地事業の主体は原告ではなく、正廣寺であることをもって、原告に対する土地重課規定の適用を否定するが、前第三の一で判示したとおり、本件墓地事業の事業主体は原告と認められる以上、右原告の主張は理由がない。

また、原告は、墓地の永代使用契約は、債権的契約であり、本件墓地事業は、何ら物権的権利の譲渡を目的とするものではないから土地重課規定の適用はないと主張する。

しかし、永代使用権を購入した者は当該墓地に墳墓を設置して当該墓地を長期間使用することができるのであるから、右永代使用権の販売は、賃借権類似の土地使用権の設定行為であると認めるべきである。したがって、右原告の主張は理由がない。

また、原告は、相続税法の規定を引用しつつ、人間本来の義務である祖先の祭祀を果たすための契約による金員の授受に対して、本来土地売買による不労利益に対する課税規定であるところの土地重課規定を適用することは法の趣旨の予定するところではないと主張する。

しかしながら、土地重課規定の趣旨が、法人の土地に対する投機的な取引の抑制を図りつつ、住宅のための土地供給を促進するというものであることに争いはないところ、右規定を定めた租税特別措置法上、祖先の祭祀に関する土地譲渡について適用を除外する旨の規定はなく、また、墓地造成を目的とするものであったとしても、それに関連して投機的な土地取引がなされないとはいいきれないことからしても、同法の趣旨から墓地造成を目的とする土地取引を除外する趣旨が明らかであるとはいえず、原告主張の相続税法の規定内容にかかわらず、原告のこの点に関する主張は理由がない。

なお、原告は、原告顧問税理士が被告法人税課職員から、墓地、霊園事業については、業者において自由に永代使用権の処分が可能であり、例えば業者が永代使用権の販売権自体を取得し、その者が他に転売が可能であるような、墓券が権利書として一人歩きするような場合にのみ、土地重課規定の適用があるが、本件の場合には、原告は常に購入予定者が申込みをした段階で、正廣寺に報告し、正廣寺の承諾を受けて該当する墓地についての永代使用権利証を発行してもらうという実体であることから、右場合に該当せず、本件墓地事業に土地重課規定の適用はない旨の説明を受けたと主張する。

しかしながら、被告法人税課職員が右の説明をしたことの真否はともかく、本件土地を墓地として分譲して得た利益に土地重課規定の適用があるか否かは、土地重課規定の解釈、適用に関する問題であるから、原告顧問税理士が被告法人税課職員から右説明を受けたとしても、それにより本件について土地重課規定の適用がなくなるものではない。

4  以上のとおり、本件墓地事業による所得については、土地重課規定の適用があると解すべきものである。

三  預かり保証金の土地譲渡益金額からの控除

1  原告は、本件墓地事業について土地重課規定の適用があるとしても、本件各墓地に関する永代使用契約締結の際に授受した金員のうちの五〇パーセントは、返還義務を負っている預かり保証金であり収益金ではないので、土地譲渡益金額から控除されるべきであると主張する。

前認定の事実、ことに、霊苑使用者誓約書の宛名が「貴苑」すなわち正廣寺となっていることからすると、右誓約書第九条の規定により墓地不要の申出があった場合に永代使用料の五〇パーセント相当額を返還する義務を負うのは正廣寺であって原告ではないと認められる。

また、正廣寺が返還すべき右金員を原告が正廣寺に対して補填すべき義務があることを認めることができる証拠はない。すなわち、この返還規定の趣旨をめぐって本件墓地の契約者から疑義が出され、原告において、「皆様方より受納いたしました永代使用の懇志につきましては、その半額は皆様方から当方がお預かりしている、いわば保証金でありまして、何時でも皆様方よりの「使用墓地不要」とのお申出により皆様方にお返しする性格のものであります。ただし、その手続に二か月を要します。」という内容を確認する旨の確約書を契約者から微している(甲三)一方、原告は、正廣寺に対しては、右返還については墓地不要の申出があったときには墓地は原状に復され、正廣寺において当該墓地を第三者に売却することによってその資金の手当が可能である旨の説明をしている(証人藤本)のであって、右返還に要する資金を原告において準備するとか、正廣寺に対して補填するという話がされたことは一切窺えないのである。

2  したがって、その返還すべき金員の法律的な性質(預かり金か否か)を検討するまでもなく、原告の主張は理由がない。

四  新築建物の土地との一括譲渡の特例の適用の有無

1  原告は、本件墓地の分譲について土地重課規定の適用があるとしても、その譲渡利益を算出するにあたり収益の額から控除すべき原価については、措置法関係通達(法人税編)六三(二)-四《新築した建物を土地等とともに一括譲渡した場合の対価の区分の特例》に準じて算出されるべきである旨主張する。

2  しかしながら、そもそも右通達に定められた計算方法は土地の譲渡対価を算出するための計算方法であるのに、原告は譲渡原価算出のために右通達の定めた計算方法に準じて計算すべきであると主張するものであり、しかも主張している具体的な計算式は右計算方法に準ずるものではなく、この点に関する原告の主張は失当であると言わざるを得ない。

3  なお、仮に原告の主張が本件墓地分譲において本件土地の譲渡対価を算出するのに右通達の計算方法に準じて算出すべきであるというものであったとしても、土地重課制度は土地の譲渡等による収益を課税の対象とするものであるところ、土地に建物を新しく建てて一括譲渡する場合、譲渡者が入手する収益のうちには、土地の譲渡による収益と新築建物の譲渡による収益とが混在しているので、それぞれの譲渡による収益の額を区分し、土地の譲渡による収益のみを課税の対象とする必要があるが、実務上、建物の譲渡価格なり土地の譲渡価格なりを見積もることはかなりの困難が伴うため、新築した建物の譲渡による収益を土地及び建物の一括譲渡収益から除くことにより土地の譲渡収益を把握するための便宜上の計算方法を定めたのが右通達であり、これは土地の造成による付加価値を土地の譲渡収益から除くための計算方法でない。

4  したがって、本件墓地事業における譲渡収益の算出について右通達が適用にならないことは勿論、これと同様の算出方法を援用することの合理性は存在しないといわなければならず、原告の主張は理由がない。

五  実額配賦法の選択の可否

1  原告は、本件事業年度の確定申告時において、原告には錯誤があり、原告は右錯誤に基づいて概算法を選択した上で確定申告を行ったものであるので、被告は、原告が概算法選択の意思表示を取り消して実額配賦法を選択したうえで実額配賦法による譲渡経費の計算をすることを許すべきである旨主張する。

2  しかし、本件訴訟は、被告の行った更正処分等が適法であるか否かを審理するものであるので、被告が更正処分等を行った時点における事実を基礎に右判断を行うべきものであるが、被告が本件更正処分等を行った時点において、原告により修正申告又は更正の請求がなされ、その中で実額配賦法により譲渡経費の計算をする旨の記載がなされていたという事実は認められない。

したがって、被告により本件更正処分等がなされた時点において、被告が実額配賦法により譲渡経費の額を計算しなかったことはむしろ当然であり(措置法関係通達(法人税編)六三-(四)-一九四〔更正決定の場合の経費の計算方法〕において、本件のように確定申告書に実額配賦法の記載がない場合には、概算法により経費を計算すべきことが定められている。)この点を理由に本件更正処分等を違法なものであるとすることはできない。

3  また、原告は、錯誤により概算経費選択の意思表示の撤回を認めた判例を援用し自らの主張を理由付けようとするが、当該判例は、更正処分等がなされる以前に実額経費の記載のある修正申告がなされていた事案であって、そうだからこそ、右修正申告にもかかわらず概算経費を前提になされた更正処分等の適法性の判断において、それ以前になされた確定申告における概算経費を選択した意思表示の錯誤に基づく撤回を認めるか否かが問題となったのであるが、本件では原告により本件更正処分等以前に修正申告あるいは更正の請求が行われたという事実はないのであるから、本件が右判例と事案を異にすることは明らかであり、右判例の判断は妥当しない。

4  以上より、原告のこの点に関する主張は理由がない。

第四  以上のとおり、本件各処分の違法をいう原告の主張はいずれも失当であり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤修市 裁判官 白井幸夫 裁判官 植田智彦)

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